2002年2月13日水曜日

【裁判例情報】わいわいランド事件

わいわいランド事件(大阪高裁平成13年3月6日判決)

(事案の概要) 
Yは、保育所の経営等を行う有限会社であるが、平成11年4月からのA社からの保育業務委託を見込み、平成10年11月ごろからXらに保育ルームのトレーナーとしての就職を勧誘した。Xらは勧誘をおおむね承諾していたところ、労働条件の明確化を求め、Yは、平成11年3月27日、Xらに対し労働条件を記載した雇入通知票等を交付した。これに対し、X1は承諾したが、X2は考えさせて欲しいと回答した。 しかし、結局、Xらが就労を開始する前に、Yは、4月6日にX1に対し、同月8日にX2に対し、A社との業務委託契約が成立しなかったことを理由に、Yへの就職の話はなかったことにしてほしい旨述べた。  なお、X1はYに就職するため、平成11年3月末をもって、勤務していたB幼稚園を退職した。X2は、勤務していた実兄の経営するC工務店に退職の申出をし、また、D幼稚園からの勧誘を断っていた。

(判決の要旨) 
〈X1とYとの間には平成11年3月27日に期間の定のない雇用契約が成立していること、X2とYとの間には雇用契約が成立したとは認められないことを認定した上で、〉本件〈X1の〉解雇は、予定していた A社の保育所における業務をYが委託を受けることができなくなったという客観的な事実を理由とするものである。X1もそこを職場とすることを予定して雇用契約を結んだものである。したがって、本件解雇は、やむをえないものであって、権利の濫用や信義側に違反するとはいえない。 
Yは、X1に対する本件解雇をするに当たり30日以上前にその予告をしたとは認められない。したがって、その解雇通知は、即時解雇としての効力を生じないが、特段の事情がない限り、通知後労働基準法20条1項所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力を生ずるものである(最判昭和35・3・11参照)。したがって、Yに対し労働基準法所定の付加金請求権はともかく、同法20条1項に基づく同条項所定の30日分以上の平均賃金相当の解雇予告手当の支払請求権が生ずるわけではない。 この場合、X1は、本件解雇の生ずるまでの期間の賃金請求をなすことができる(民法413条、536条2項)。 
以上によると、X1のYに対する解雇予告手当の支払請求は理由がなく棄却を免れない。しかし、X1はYに対し平成11年4月6日からの1か月分の賃金24万円の支払を求めることができる。 
Xらは、Yの言葉を信頼し、Yと雇用契約を結んだうえ、相当期間保母等として勤務を続けることができるものと期待した。 雇用契約の性質上、労務に服するXらが、Yと雇用契約を結ぼうとする場合は、勤務先があるときはこれを解約し、また転職予定があってもこれを断念しなければならない。〈中略〉雇用によって被用者が得る賃金は生活の糧であることが通常であることにもかんがみると、Yは、Xらの信頼に答えて、自らが示した雇用条件をもってXらの雇用を実現し雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があったというべきである。また、副次的にはXらがYを信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために、雇用の実現、継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあったということができる。 ところが、Yは、Aとの保育業務の委託契約の折衝当初からこれが成立するものと誤って判断した。そのうえ、その折衝経過及び内容をXらに説明することなく、業務委託契約の成立があるものとしてYとの雇用契約を勧誘した。その結果、X1については契約を締結させたものの就労する機会もなく失職させ、X2については雇用契約を締結することなく失職させた〈中略〉。 
以上のYの一連の行為は、全体としてこれをみると、Xらが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為にあたるものというべきである。したがって、Yは民法709条、44条1項により、これと相当因果関係にあるXらの損害を賠償する義務がある。 X1の再就職状況や通常再就職に要する期間(数か月単位であろう。)、雇用保険法における一般被保険者の求職者給付中の基本手当の受給資格としての最低被保険者期間が6か月であること(最低限度の就職期間と評価することができる。)にかんがみると、X1がYの不法行為によってYから賃金を得ることができなかった期間のうち、その5か月分(X1は前示のとおり平成11年4月分の賃金の支払を受けることができるから、これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。 
〈損害額は〉X1がYから得るべきであった月額24万円に5ヶ月をかけて得られる120万円である。 
〈なお、X2については、平成11年6月から現実に職を失ったことを考慮し、4か月分(X2はC工務店から平成11年4月及び5月分の賃金の支払を受けており、これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つものと認めた。〉

【裁判例情報】トーコロ事件

トーコロ事件(東京地裁平成6年10月25日判決)

(事案の概要) 
Yと「会員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実をあげる」ことを目的とする親睦団体(友の会)の代表者であるAとの間で36協定が結ばれていた。Yが、これに基づいて残業命令を行ったところ、Xは拒否した。Yはこのことを理由にXを解雇した。

(判決の要旨) 
Yの残業延長要請及び本件残業命令が適法になされたものであるかどうかについてみると、〈中略〉本件36協定は、親睦団体の代表者が自動的に労働者代表となって締結されたものというほかなく、作成手続において適法・有効なものとはいいがたい。 そうすると、本件36協定が無効である以上、Xに時間外労働をする義務はなく、Xが残業を拒否し、あるいは残業を中止すべき旨の主張をしたからといって、懲戒解雇事由に当たるとすることはできない。 
YのXに対する本件解雇は、普通解雇であるとしても、解雇事由が存しないか、あるいは解雇権の濫用に当たるものとして無効というべきである。 しかし、本件解雇に至った経過を見ると、Xは、平成3年11月8日ごろの中途採用者研修や、同月9日の激励会において、繁忙期間中の有給休暇取得問題に関し、A総務部長を公然と非難し、その後、人事考課の自己評価を拒否し、Yの上層部に秘密で本件手紙〈Yにおいて不法な残業が行われていること等を訴える手紙〉を配布し、本件手紙の配布問題についてA総務部長に謝罪を申し入れる文書を交付し、なおこの間、友の会を通じた話し合いも拒否するなど、その残業中止等の労働条件改善要求はあまりに性急であり、必ずしも職場の同僚や上司の理解・共感を得られたとはいえないこと、Yは、本件解雇後、仮処分命令に従って賃金仮払いに応じてきていること、XがYに勤務し始めてから本件解雇に至るまでの期間は8ヶ月に満たないこと、Xは独身であること等諸般の事情からすると、Xの受けた精神的苦痛は、Xについて雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認し、かつYに大して賃金の支払を命ずることによって慰謝されるべき性質のものであると認められるから、本件解雇を不法行為あるいは債務不履行に当たるとして慰謝料の支払を求めるXの請求は、理由がないというべきである。

【裁判例情報】女子学院事件

女子学院事件(東京地裁昭和54年3月30日判決)

(事案の概要) 
Xは、昭和38年、女子の教育を目的とする学校を経営するYとの間で、Yの職員として勤務する旨の雇用契約を締結し、それ以来Yの会計事務に従事してきたが、Yは、Xに対し、昭和50年4月28日、上司の指示や助言を受け付けないこと、同僚の事務職員や教師とも折り合いが悪いことが就業規則所定の解雇事由に当たるとして、解雇予告をした。 しかし、XがYに迷惑をかけたことを認めて詫びるとともに今後その欠点を改めていく決意であるとの趣旨の書面を提出したことから、同年7月9日、Yは当該解雇予告を撤回した。

(判決の要旨) 
本件解雇予告は、Xが就業規則第3条、第5条第4号、第24条第1号及び第3号に該当することを理由とするものであるところ、関連規定の内容は、次のとおりである。 

(職務の遂行)
 第3条 職員及び用務員は、この規程を守り院長の指示に従って、誠実にその職務を遂行しなければならない。
 第5条 職員及び用務員は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。1ないし3(略)4 学院の秩序又は職場規律を乱すこと 
(解雇事由)
 第24条 職員及び用務員が、次の各号の一に該当するときは、解雇することができる。1 職員又は用務員としての能力を著しく欠くとき2(略)3 第31条に規定する免職の懲戒を受ける事由があるとき (懲戒)
 第31条 この規程に違反した職員及び用務員に対しては、理事会は免職の懲戒を行うことがある。 

しかるところ、前記で認定したように、本件解雇予告の理由とされた事実は、いずれも就業規則の右各規定に該当しないか、又はXに極めて軽微な責任しか負わせることができない場合であり、他にXを解雇すべき相当の理由も見当らないから、本件解雇予告は権利の濫用として違法であり、Yにはこのような理由で解雇予告をしてはならないのにこれを発したことにつき過失があるものということができ、これによりXは精神的損害を受けたことが認められる。 
A院長が昭和50年5月6日教員により教育上の諸問題を討議する場である教育会議の席上本件解雇予告通知書記載の理由により原告に対し解雇予告を発したことを説明し、さらにB事務長が同月7日定例の事務打合会(20人位の事務職員の出席する会議であることが認められる。)の席上右通知書を読み上げてこれを発表したことは当事者間に争いがなく、右の説明ないし発表行為がYの意を受けて行われたことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。 
右事実に、前記のとおり本件解雇予告の理由とされた事実がいずれも就業規則の前記各規定に該当しないか、又はXに極めて軽微な責任しか負わせることができず、本件解雇予告が権利の濫用として違法であることを併せ考えると、右説明ないし発表は、事実はそうでないのに、Xが誠実にその職務を遂行せず、学院の秩序又は職場規律を乱し、職員としての能力を著しく欠き、懲戒免職を受けるべき事由があったとの印象を多数のYの職員に与えたものということができ、Yは、過失により違法にXの名誉を傷つけたものというべきである。 
Xが昭和50年4月30日〈XがYに迷惑をかけたことを認めて詫びるとともに今後その欠点を改めていく決意であるとの趣旨の〉書面を提出したのに対し、Yが同年7月9日付書面で、(1)当時の管理体制に種々不備な点があったことを認める、(2)Xの反省と今後への決意を評価する、(3)解雇予告通知は妥当性を欠く点があったことを認める、特にその内容にXの職員としての能力についてXの名誉を傷つけかねない誤解を招いたことは遺憾であったとして本件解雇予告を撤回したこと、本件訴訟の提起は、その後同年10月7日付の配置転換によりXY間に争いが再燃したことが契機になっていることが認められる。 したがって、前記で判示したXの精神的損害は、一旦かなりの程度填補されたと解すべきものであり、前記で認定した事実その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し、Yのなすべき損害賠償の額は20万円をもって相当と認める。

【裁判例情報】茨木消費者クラブ事件

茨木消費者クラブ事件(大阪地裁平成5年3月22日決定)

(事案の概要) 
Yは、無農薬、無添加食品の小売販売業を営んでおり、従業員は15名で、会員約1300名から注文を受け、自宅まで配送をするものであり、Xらは、配送員及び仕分け員としてYに勤務していた者である。Yには労働組合はなかったが、平成3年7月30日、Xらを含む7名の従業員は組合を結成し、X1が執行委員長、X2が副委員長、X3が書記長となった。 Yは、平成4年3月31日及び同年4月3日、解雇予告手当を支払った上で、解雇通知書によって、Xらにそれぞれ懲戒解雇の通告をした。 なお、Yの就業規則では、解雇に関して普通解雇及び懲戒解雇の2種を定め、解雇事由をそれぞれ規定していた。

(決定の要旨) 
Yは、Xらにおいて、就業規則45条各号に定める懲戒解雇事由及び11条1ないし4号に定める普通解雇事由のいずれかに該当する事情があることを主張し、その他に11条の普通解雇事由は予告解雇する場合の例示であるとして就業規則に定めていない事由による普通解雇も有効であるとの見解に立って、その余の普通解雇自由に該当する事情もある旨の主張をする。そこで、先ずこの点について判断する。 
前記のとおり茨木消費者クラブの就業規則には普通解雇の事由として、「精神又は肉体的故障により業務に耐えられないと認められるとき(1号)、作業に誠意なく技能能率不良で配置転換するも見込みなきとき(2号)、やむを得ない事由のため事業の継続が不可能になったとき(3号)及び打切補償をおこなったとき(4号)」と規定しており、これは普通解雇事由を限定的に列挙したものと認められる。このように使用者が就業規則において普通解雇事由を限定的に列挙して規定している場合には、右普通解雇事由に該当する事実がなければ解雇しない趣旨に使用者自ら解雇権を制限したものと解するのが相当であるから、Yの右主張は失当であり、採用することができない。 
したがって、以下においてはXらについて、就業規則に定める懲戒解雇事由及び通常解雇事由があるかどうかについてのみ判断することとする。 
X1については就業規則45条9号〈しばしば懲戒を受けたにもかかわらず、改しゅんの見込みがないとき〉に該当する懲戒解雇事由があるとみる余地があるものの、X2及びX3については、就業規則に定める懲戒解雇事由も普通解雇事由もあるとは認めることができず、右両名に対する本件解雇はこの点において無効であるといわざるを得ない。 
〈Xらの組合結成から解雇されるに至る経過等の事情からすると、Yが、Xらの結成した組合を嫌悪し、Yからこれを排除しようと企図し、組合の中核であるXら3名を解雇することを決意し、解雇したものであることが明らかであるとした上で、〉そうだとするとXら3名に対してした解雇は不当労働行為意思によるものであると認められるから、X1において前記のような事情があるとしても、同人に対する本件解雇は解雇権の濫用に該当し、無効であるといわざるを得ない。

【裁判例情報】社会福祉法人さくら事件

社会福祉法人さくら事件(神戸地裁姫路支部平成14年10月28日判決)

(事案の概要) 
Yは、重度身体障害者更生施設であるリハビリセンターの設置経営を目的とする社会福祉法人であり、Xは、平成4年6月、Yに雇用され、センターの生活指導員として勤務してきた者であるが、Yは、Xに対し、平成12年4月24日付けで生活指導員等の職を解任する旨の辞令を手渡し、翌25日には、同日付けで、就業規則16条2号所定の解雇事由である「勤務成績又は技能が不良で職員としての適格を欠く場合」に該当するとして解雇を通告する書面を送付した。

(判決の要旨) 
YがXの当初の解雇事由として挙げたものは、その1つ1つを取り上げれば、正当な解雇事由とはなり得ないが、これらの事実を併せ考えると、Xには、重度身体障害者福祉施設の生活指導員としてはもとよりのこと、職員としての的確性にも疑問を抱かせる行状が多く、Yが解雇したこともあながち不合理であるとはいえない面がある。 
しかしながら、Yが、前記のとおり平成12年4月24日の段階では、Xに反省を促して様子を見るつもりで生活指導員の職を解任したというのであれば、Xに対する事情聴取や口頭注意等の善後策を講じるべきである。理事長は、同月25日にXらがセンターを訪れたとき、反省の弁や謝罪の言葉もなく、反抗的な行動と態度が見られたことから、Xらについて、改善の見込みがないものとの判断を下したものと供述するが、上記のような措置を何ら講じることなく、翌日直ちに解雇を決断したというY側の対応には理解し難いところがあることからすれば、本件解雇理由について、合理性ないし相当な理由があるとは認められない。 
以上によれば、Xらについて、本件就業規則16条2号所定の解雇事由に該当する事実は認められないから、Xらに対する本件解雇は、その余の点について判断するまでもなく、無効というべきである。

【裁判例情報】大阪フィルハーモニー交響楽団事件

大阪フィルハーモニー交響楽団事件(大阪地裁平成元年6月29日判決)

(事案の概要) 
Xは、Y交響楽団の楽団員であるが、兄とともに各種催し物の企画等を行うA社を設立し、同社の音楽関係の各種催し物の立案、企画等について中心的に活動していたが、Yは、A社がYの演奏会に対抗してコンサートを企画したことなどの競業行為を理由に、Xを解雇した。 なお、Yの就業規定第II項には「楽団員の解雇は次のとおりとする。業務に堪えられない者、労働能率が著しく劣悪な者、精神又は身体の障害により業務に堪えられない者は、楽団は組合と協議して決める。」との規定があり、また、Yと労働組合との間の協定第V項は、「組合員の解雇について本人及び組合に異議のあるときは労使協議し、協議が整わないときは解雇しない」と定めていた。

(判決の要旨) 
Xは、就業規定第II項の楽団員の解雇事由は限定的列挙であると主張する。なるほど、就業規定には右条項以外に楽団員の解雇に関する規定はない。しかしながら、同条項の文言に照らし、X主張のように解すべき必然性はないのみならず、X主張のように解するとすれば、同条項で列挙され、又はこれに準ずる事由以外の事由による解雇はおよそできないことになり、例えば非行によりYにいかなる損害を与えた楽団員ですらYは解雇できず、同人が自ら退職しない限り同人との雇用契約の継続を余儀なくされるなどの不都合な結果を招来することになるから、Xの右主張は採用できず、同条項列挙の解雇事由は例示的なものと解するのが相当である。 
Yは、協定第V項は、就業規定第II項を受けて規定されたもので、楽団員の義務違反ないしは背信行為を理由とする解雇には適用されない旨主張する。しかしながら、右条項は文言上協議の対象となる解雇を何ら限定していないのみならず、協定は〈中略〉Yの行う人事に組合が参加することを広く認めているのであるから、同条項は、Yの楽団員に対する恣意的な不当解雇を防止することを目的として、あらゆる場合の解雇について適用されると解するのが相当である。 
協定第V項にいう「協議」とは、前記同条項の目的に照らし、特段の事情がない限り解雇の意思表示の事前になされることが必要であり、しかも、単に労使が当該解雇につき話合いの場を持っただけでは足りず、解雇の是非当否について双方がそれぞれの立場から、議論を尽くすことをいうものと解され、同条項にいう「協議が整った」とは、労使が右議論を尽くしたうえで双方が解雇相当との結論に到達した場合をいうと解するのが相当である。 これを本件についてみるに、前記認定事実を総合すれば、Yと組合の本件解雇についての協議は、第一解雇後初めてなされ、しかも右協議は六回を数えたものの、Yは終始一貫してXの解雇に固執し、組合の行うXの復職要求に対し一顧だに与えなかったため、組合は右要求の実現が不可能であることを知り、ついにYとの交渉を断念し、これを終息したのであるから、右協議が同条項にいう協議に該当すると認めることは困難であり、また、組合が右経緯でYとの交渉を終息したことをもって、組合が本件解雇に同意したものと解する余地があるとしても、右同意が同条項の「協議が整った」場合に該当しないこともいうまでもない。したがって、本件解雇手続は同条項に違背するものといわねばならない。 本件解雇は、協定第V項に規定する組合との協議が整わずなされたものであるが、本件解雇事由が解雇に相当する強度の背信性をもち、かつ、協議が整わなかったことにつき専ら組合に非がある等の特段の事情が認められるときは、なお本件解雇は有効であると解するのが相当である。 〈中略〉
以上の認定説示を総合すれば、Xに本件解雇を相当とする重大な背信行為があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。 右認定説示によれば、本件解雇は、その手続において協定第V項に違背してなされた違法なものであり、しかも、前記特段の事情も認められないから、無効であるといわねばならない。

【裁判例情報】上野労基署長(出雲商会)事件

上野労基署長(出雲商会)事件(東京地裁平成14年1月31日判決)

(事案の概要) 
Xは、宝石・貴金属の輸入、製造販売を営む株式会社であり、Aは、Xに雇用され宝石加工の業務責任者の地位にあった者であるが、加工先に交付すべき金、プラチナ等をAが窃取していたという事実が発覚し、Xは非行事実及び損害額を調査していたところ、Aに反省の態度が見られなかった。そこでXは、平成10年10月15日、Aに対し、事実を明らかにしなければ懲戒解雇にするとの意向を示し、さらに同年12月14日、同年10月15日付解雇を理由とする離職票を交付し、もって即時解雇の意思表示をした。 Xは、同年11月11日、Y(上野労働基準監督署長)に対し、Aについての解雇予告除外事由の認定の申請をしたが、Yは、これに対し、12月4日付で解雇予告除外不認定処分をした。 そこで、Xは、解雇予告除外不認定処分の取消を求める請求を行った。

(判決の要旨) 
解雇予告除外事由の認定の制度は、解雇予告除外事由の存否に関する使用者の恣意的な判断を抑止するという、行政取締り上の見地から、使用者に対して解雇予告除外事由に該当する事実の存在についての行政官庁の認識の表示を受けるべきものとしたものであって、その認識の表示自体に直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することを認めているのではないと解される。 したがって、解雇の効力は行政官庁による解雇予告除外事由に関する労働基準法20条3項、19条2項の認定の有無・内容にかかわりなく、専ら同法20条1項ただし書の定める客観的な解雇予告除外事由の存否によって決せられ、使用者は、不認定行為を受けた場合であっても有効に即時解雇をすることを妨げられず、反対に認定行為を受けた場合であっても、客観的に見て解雇予告除外事由が存在しないときは、即時解雇を有効なものとすることはできないこととなるものであり、そうとすれば、行政官庁による解雇予告除外事由の認定の有無・内容は使用者の雇用契約上の地位に何らの影響を及ぼすものではないこととなる。 以上によれば、本件行為は抗告訴訟の対象となる公権力の行使に当たる行為ということはできないから、Xの本件訴えは不適法というべきである。

【裁判例情報】セキレイ事件

セキレイ事件(東京地裁平成4年1月21日判決)

(事案の概要) 
Xは、平成2年5月からYに入社した労働者であるが、Yの主張によれば、入社後まもなく社内や社外においてYの経営につき非難中傷をし、さらにYと無縁の暖炉やログハウスをYの見込み客に売り込み、また、顧客からの入金分の横領等の背任行為を行ったことから、Yは、同年7月21日に、解雇予告手当を支払うことなくXを即日解雇したものである。

(判決の要旨) 
Xは、平成2年7月11日に、会社の上司から「おまえは首だ」といわれたことが認められ、Xは同日Y主張趣旨に沿う内容の書面を会社に提出していることが認められる。そして右事実からすれば、右上司による意思表示は、Y主張の事実を理由とする懲戒解雇の意思表示であったことが認められる。 しかしながら、Xは、書面を作成する直前に、Yの専務や部長等数人から殴る蹴るの暴行を受け、〈中略〉全治10日の傷害を負わせられたうえ、右趣旨の内容の書面を書かなければ帰さないと言われたためにやむを得ず意に反して作成したものであることが認められ、右事実からすると、右書面の内容には信用性がなく、他にY主張の懲戒事由の存在を立証する証拠はない。 そうであるとすれば、Yに懲戒解雇権が発生しているとは認められず、したがって、Yの懲戒解雇の意思表示は無効であり、これを通常解雇の意思表示と見るにしても、解雇予告手当の支払がない以上解雇の効力は生じないことになるが、Yにおいて雇用関係を即時に終了させる旨の意思を有していたことは明らかであるとともに、Xにおいても雇用関係の即時終了の効力が生じること自体は容認し、解雇予告手当の支払を求めているものであるから、右意思表示によってXとYとの間の雇用関係は即時に終了し、YはXに対し解雇予告手当を支払うべき義務が生じるものと解するのが相当である

【裁判例情報】プラス資材事件

プラス資材事件(東京地裁昭和51年12月24日判決)

(事案の概要) 
Xらは、Yに雇用されたものであるが、Yは、昭和50年12月分及び昭和51年1月分の賃金をXらに支払わず、また、昭和51年1月末、解雇予告手当の支払をしないでXらを解雇した。

(判決の要旨) 
労基法20条所定の平均賃金(以下、解雇予告手当という。)の支払をしないでなされた解雇の意思表示は、即時解雇としての効力を生じないものではあるが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、解雇通知後同条所定の30日の期間を経過するか、又は解雇予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生ずるものとされている(最判昭和35年3月11日民集14巻403頁)。
そして、右のような使用者の解雇の意思表示は、通常、即時解雇を固執する趣旨でないものと解されるが、右意思表示に対して労働者が即時解雇を争う限りにおいては引続き約旨にしたがった労務の提供があるべきで、その場合には、その期間についての賃金請求権を取得することになるとともに、解雇通知後30日の期間経過とともに雇傭契約は終了する。 
これに対し、使用者の右のような解雇の意思表示がなされた場合には、労働者において、即時解雇としての効力の発生を容認する趣旨ではないにしても、労務を提供しても受領されることはあり得ないものとしてその提供を断念するにいたる場合も起こり得ることは見易いところであり、かかる場合にあっては、労働者が現実に又は少なくとも口頭をもって労務の提供をしていない以上、賃金請求権の発生を認めることはできないし、また、使用者の責に帰すべき事由に因って労務提供をなすこと能わざるに至った(民法536条2項参照)と解することも困難である。 しかし、労働者が右のように労務提供を断念するにいたったのは、使用者が労基法20条の規定に違反して解雇予告手当を支払わないにも拘らず即時解雇と受けとられる意思表示をしたが故であり、しかも、使用者は結果において右法条に違反する即時解雇の状態を実現させたことになるのである。そうとすれば、右法条により即時解雇するにあたって解雇予告手当支払義務を課せられている使用者は、右のような状態のもとに雇用契約が終了した時点において、労働者に対し解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を具体的かつ確定的に負担するにいたるものというべく、その支払を受けるべき労働者の利益は裁判上の保護を受けるに足るものといえるから、裁判所は使用者に対しその支払を命ずることができるというべきである(同法114条参照)。そして、その額は、少なくとも同法20条所定の30日から解雇通知後労務を提供していた日数を控除した日数分の平均賃金額であ〈中略〉る。さらに、労働者が解雇予告手当を訴求する以上は、特別の事情のない限り、前記の事情のもとに労務の提供を断念したものと認めるべきであって、本件においても特別の事情を認めるべきものがない。

【裁判例情報】細谷服装事件

細谷服装事件(最高裁昭和35年3月11日第二小法廷判決)

(事案の概要) 
Xは、昭和24年4月1日、Yに雇われ、一般庶務、帳簿記入等の事務を担当していたが、Yは、昭和24年8月4日、Xに対し、労働基準法第20条に定める解雇予告手当を支給することなく、一方的に解雇の通告をした。

(判決の要旨) 
使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知后同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであつて、本件解雇の通知は30日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。

【裁判例情報】フジ興産事件

フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)

(事案の概要) 
Xは、A社の設計部門であるエンジニアリングセンターにおいて、設計業務に従事していた。A社は、昭和61年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、同日から実施する就業規則(以下「旧就業規則」という。)を作成し、同年10月30日、B労働基準監督署長に届け出た。旧就業規則は、懲戒解雇事由を定め,所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めていた。 
A社は、平成6年4月1日から旧就業規則を変更した就業規則(以下「新就業規則」という。)を実施することとし、同年6月2日、労働者代表の同意を得た上で、同月8日、B労働基準監督署長に届け出た。新就業規則は,懲戒解雇事由を定め,所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めている。 A社は、同月15日、新就業規則の懲戒解雇に関する規定を適用して、その従業員Xを懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)した。その理由は、Xが、同5年9月から同6年5月30日までの間、得意先の担当者らの要望に十分応じず、トラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとり、上司に対して暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したりしたなどというものであった。 その後、Xは、A社の代表者Yらに対し、違法な懲戒解雇の決定に関与したとして、損害賠償を請求した。 Xは、本件懲戒解雇以前に、Aの取締役Yに対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問したが、この際には、旧就業規則はセンターに備え付けられていなかった。

(判決の要旨) 
原審は、次のとおり判断して、本件懲戒解雇を有効とし、Xの請求をすべて棄却すべきものとした。
(1)
 A社が新就業規則について労働者代表の同意を得たのは平成6年6月2日であり、それまでに新就業規則がY社の労働者らに周知されていたと認めるべき証拠はないから、Xの同日以前の行為については、旧就業規則における懲戒解雇事由が存するか否かについて検討すべきである。
(2)
 前記2(3)〈A社は、昭和61年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、旧就業規則を作成し、同年10月30日、B労働基準監督署長に届け出ていたこと〉の事実が認められる以上、Xがセンターに勤務中、旧就業規則がセンターに備え付けられていなかったとしても、そのゆえをもって、旧就業規則がセンター勤務の労働者に効力を有しないと解することはできない。
(3)
 Xには、旧就業規則所定の懲戒解雇事由がある。A社は,新就業規則に定める懲戒解雇事由を理由としてXを懲戒解雇したが、新就業規則所定の懲戒解雇事由は、旧就業規則の懲戒解雇事由を取り込んだ上、更に詳細にしたものということができるから、本件懲戒解雇は有効である。 

しかしながら、原審の判断のうち,上記(2)は,是認することができない。その理由は、次のとおりである。 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決〈国労札幌支部事件〉)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。 
原審は、A社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これをB労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。 そこで、原判決を破棄し、上記の点等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

【裁判例情報】国鉄中国支社事件

国鉄中国支社事件(最高裁昭和49年2月28日第一小法廷判決)

(事案の概要) 
国鉄Yの職員Xが、協議会開催反対運動に参加した際、現地で警察官との衝突があった。その際、警部補Aが、反対運動者が警察官に暴行を加えているのを現認したので、部下の警察官にその場面のの写真撮影を命じたところ、その場にいたXは、これに気づいてAを指さし、「こいつを巻き込め」と叫んだ。危険を察知したAが、難を避けようと車道を横断しかけたところ、Xは反対運動者2、3名とともにその後を追いかけ、逃げ場を失い引き返してきたAの腰部付近に背後から抱きついて一旦とらえたが、Aはこれを振り切って逃げた。 Xはこの行為につき、公務執行妨害罪で起訴され有罪判決(懲役6ヶ月執行猶予2年)が確定した後に、Yにより国鉄法第31条1項1条〈懲戒処分をなし得る場合として、「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」をあげている。〉及び懲戒事由を定めた国鉄就業規則第66条17号の「著しく不都合な行いのあったとき」に該当するとして免職処分とされた。 なお、Xは、この行為を行った際、他の事件(暴力行為等処罰に関する法律違反)で起訴され、休職中であり、また、本件の所為以前には休職処分が1回、本件の所為後には、懲戒処分が5回の処分歴があった。 原判決は、Xの行為は懲戒事由に該当するが、免職処分に処するのは相当とはいえず、無効としている。

(判決の要旨) 
使用者がその雇傭する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰である。従業員は、雇傭されることによって、企業秩序の維持確保を図るべき義務を負担することになるのは当然のことといわなくてはならない。ところで、企業秩序の維持確保は、通常は、従業員の職場内又は職務遂行に関係のある所為を対象としてこれを規制することにより達成しうるものであるが、必ずしも常に、右の所為のみを対象とするだけで充分であるとすることはできない。すなわち、従業員の職場外でされた職務遂行に関係のない所為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となりうることは明らかであるし、また、企業は社会において活動するものであるから、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれなしとしないのであって、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるがごとき所為については、職場外でされた職務遂行に関係のないものであっても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もありうるといわなければならない。そして、Yのように極めて高度の公共性を有する公法上の法人であって、公共の利益と密接な関係を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業の運営内容のみならず、更に広くその事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされるのであって、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されているのであるから、このような社会からの評価に即応して、その企業体の一員であるYの職員の職場外における職務遂行に関係のない所為に対しても、一般私企業の従業員と比較して、より広い、かつ、より厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものと考えられるのである。 本件につきこれを見るに、原審確定の本件所為は、職場外でされた職務遂行に関係のないものではあるが、公務執行中の警察官に対し暴行を加えたというものであって、著しく不都合なものと評価しうることは明らかであり、それがYの職員の所為として相応しくないもので、Yの前述の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるものであるから、国鉄法31条1項1号及びそれに基づく国鉄就業規則66条17号所定の事由に該当するものというべく、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができるのである。  
〈公務執行妨害にあたる重要な犯罪行為であること、具体的な態様も積極性が認められること、情報収集という公務執行に対する具体的な侵害を伴っていることが窺われること、有罪判決が確定していること、過去の処分歴等の諸事情を総合考慮すると、免職処分の時期が本件所為の時点から隔たりのあること、Yの職員で公職選挙法違反で有罪判決を受けた者の中で、免職処分を受けた者がいないこと、更に、免職処分の選択にあたって特別に慎重な配慮を要することを勘案しても、〉Yの総裁がXに対し、本件所為につき免職処分を選択した判断が合理性を欠くものと断ずるに足りないものというほかはなく、本件免職処分は裁量の範囲を超えた違法なものとすることはできない。

【裁判例情報】日本経済新聞社事件

日本経済新聞社事件(東京地裁昭和45年6月23日判決)

(事案の概要) 
Xは、Y新聞社に雇用され、工務局印刷部に勤務する従業員であるが、Xは、昭和43年9月26日、酒を飲んでの帰途、路上に留置されていた自転車に乗って走行し、占有離脱物横領罪として送検され、起訴猶予となった。 そこで、Yは、Xの勤務態度に問題があることや、警察がYにとって大事な取材源であり警察の信用は大切にしなければならないこと等の諸事情を総合考慮した上、Xの前記非行は就業規則第70条第4号の「法規にふれ、会社の体面を汚したとき」に当たるとして、Xを懲戒解雇処分にした。

(判決の要旨) 
〈就業規則第70条第4号の〉規定を「法規にふれる」行為があつた場合にはそれが職場外の行為であつてもただちに「会社の体面を汚したとき」に該当する場合であるとして懲戒解雇をなしうると解釈することは問題であり、むしろ労働者が職場外において「法規にふれる」行為をしてもこれを「会社の体面を汚した」として懲戒解雇をなしうるのは、懲戒解雇により問責されてもやむをえない誠実義務違反があつたとみられる場合、すなわち「法規にふれる」行為をなしよつて使用者に相当程度の損害を与えまたは与える虞れのある具体的危険を発生させ、懲戒解雇により問責されてもやむをえないとみられる場合に限られると解するのが合理的である。 
本件の場合についてみるのに、Xの非行の性質・態様・起訴猶予により事件は落着し新聞にも報道されなかつたこと、XのYにおける地位は工務局印刷部の印刷工に過ぎないことと後に述べるようにYにおいては懲戒解雇の場合は通常解雇の場合と異なり退職金が支給されない扱いになつていることを考えると、前に認定したとおりYは新聞倫理綱領に基づき自由・責任・公正・気品の保持を社の方針としてこれを記者のみならず全従業員に徹底させ、その言動を律する基準とすべく努力し、刑事事件をおこすというようなことは右気品保持の観点から排除されなければならないとして従来から厳しい姿勢をとつていること、警察は債務者にとつて大事な取材源でありその信用は大切にしなければならない立場にあること、Xの本件非行について中央警察署よりYに連絡があり、XはYにおける上司の身柄引受により釈放してもらつたこと等の事情があることを考慮しても、Xの本件非行により、じ後Yの取材活動に支障を生じたとか、経営内部の秩序維持に大きな支障を生じたとか等の事情が存在することについての立証がない以上、Xは本件非行により懲戒解雇により問責されてもやむをえないとみられるような誠実義務違反をしたと評価することは困難であり、したがつて、Xが本件非行をおかしたことをもつて就業規則第70条第4号に該当するとしたYの判断を是認することは困難といわざるをえない。〈中略〉 
したがつて、昭和43年9月30日付でなされた解雇は懲戒解雇としての効力を生じない。 

懲戒解雇と通常解雇を全く異質なものとみる必要はなく、単に雇傭関係を消滅せしめる法律要件事実が存在するかどうかが先決問題となる本件のような地位確認請求や賃金請求訴訟においては、解雇の意思表示が懲戒解雇する旨の意思表示としてなされているが使用者が懲戒解雇事由にあたるとした事実を懲戒解雇事由にあたるとは評価しえない場合、そこでただちに雇傭関係消滅の効果が生じないと断定することなく、表意者たる使用者の意思が、懲戒解雇事由にあたると考えた事実が懲戒解雇事由に該当しないとすれば雇傭関係消滅の効果を意欲しなかつたというような特別事情の認められない限り、使用者が懲戒解雇事由にあたると考えた事実を懲戒解雇事由にあたると評価しえない場合でも、右解雇権の行使により通常解雇としての効力すなわち雇傭関係消滅の効果が生じないかどうかを検討する必要がある。 そこで、本件の場合についてみるのに、右特別事情を認めるに足りる疎明資料はなく、かえって前にも記したとおり、Yは、Xに対する信頼を失いこれと雇傭関係を続けてゆく意思を全く失い解雇の意思表示をしたものであると一応認めることができる。 そこで、認定した事実関係を基礎に前記のように解雇権を行使しうる場合を限定的に列挙した就業規則第45条に該当する事実があるかどうかについて考えるのに、Xは、本件非行をおかしたほか労働義務または誠実義務に違反する行為等があり、YのXに対する信頼を破壊する事情が存在したことと、Yは公正・気品の保持を社の方針としこれを全従業員に徹底させその言動を律する基準とすべく努力しており、またXの職場はチームワークを必要不可欠とする職場であること等のことを考慮すると、Xには、Yとの労働契約を終了せしめられ、その地位を失わしめられるのもやむをえないとみられる事由があつたとみるのが相当であり、就業規則第45条第11号〈その他前各号に順ずるやむを得ない事由があるとき〉に該当するといわざるをえない。 右解雇の意思表示が解雇権の濫用になるといえないことは、これまで述べたところから明らかであり多言を要しない。

【裁判例情報】労働大学(本訴)事件

労働大学(本訴)事件(東京地裁平成14年12月17日判決)

(事案の概要) 
Yは、労働運動の強化等の労働者教育事業を行うことを目的するという団体であり、Xらは、昭和49年ないし昭和55年から、Yに雇用されている者である。 Yは、昭和55年以降赤字経営が続いたため、賃金の減額、人員の削減、経費の削減等を実施したが、依然として赤字は解消せず、平成11年3月には希望退職の募集を行ったものの、応募者がいなかった。そこで、Yは、Xら3名に対し、平成11年11月25日、Yの就業規則26条4号「事業を廃止・縮小するなど、やむを得ない事業上の都合によるとき」に基づき、平成11年11月29日をもって解雇する旨の意思表示をした。

(判決の要旨) 
本件解雇は、Yの就業規則26条4号の「やむを得ない事業上の都合」を理由とするものであるところ、この事由による解雇は、使用者の側における事業上の都合を理由とするものであり、解雇される労働者の責めに帰することができないのに、一方的に収入を得る手段を奪われるものであって、労働者に重大な不利益をもたらすものである。したがって、一応は前記の解雇事由に該当する場合であっても、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できないときは、解雇は権利の濫用として無効になると解すべきであり、これは、使用者において人員削減の必要性があったかどうか、解雇を回避するための努力を尽くしたかどうか、解雇対象者の選定が妥当であったかどうか、解雇手続が相当であったかどうか等の観点から具体的事情を検討し、これらを総合考慮して判断するのが相当である。  
Yは、現に倒産の危機にあったとはいえないが、従前のまま経営を続けると、近い将来存続が危ぶまれるような状況に陥る可能性が高かったといわざるを得ない。当時の社会情勢からみると、もはや売上げの増加を図ることは困難であったから、Yとしては、経営再建を実現するためには、まず経費を削減する方策を講じることが必要な状況にあったということができる。人員削減は、この経費削減のための一つの方策であるから、Yには何らかの人員削減の必要性があったと認められる。 Yは、様々な方法で経費削減を実施したほか、平成11年3月、事務局職員を対象に希望退職者を募集したが、希望退職に応じた職員はいなかった。Yが希望退職者を募集した際に提示した退職金は180万円に過ぎなかったから、この条件で希望退職に応じる者が現れるとは期待しがたいが、Yの経営状況に照らすと、Yがこれ以上高額の退職金を提示することは困難と言わざるを得ない。そうすると、Yは、Xらの解雇を回避するために一応の努力をしたということができる。 「適格性の有無」という人選基準は極めて抽象的であるから、これのみでは評価者の主観に左右され客観性を担保できないだけでなく、場合によっては恣意的な選定が行われるおそれがある。このような基準を適用する場合、評価の対象期間、項目、方法などの具体的な運用基準を設定した上で、できるだけ客観的に評価すべきである。 しかし、Yが「適格性の有無」という人選基準について具体的な運用基準を設定した上で各職員の適格性の有無を検討したことの主張立証はない。YがXらの不適格性として主張するのは、Xらの勤務態度に関する個別の出来事であり、これが他の職員との比較でどのようであったかも判然としない。〈中略〉 このように、「適格性の有無」という人選基準は抽象的なものであり評価者の主観により左右されやすいものであるところ、客観的合理性を担保する方法で評価が行われた形跡がないこと、Yがこのような人選基準の存在を本件訴訟前に説明しなかったことに合理的理由が見いだせないだけでなく、Yが本件解雇当時これとは異なる人選基準を適用するかのような説明をしていたことからすると、「適格性の有無」という人選基準によって人選の合理性を基礎付けることはできない。 以上によれば、本件解雇当時のYの経営状況に照らすと、何らかの人員削減の必要性が認められ、Yは解雇を回避するための一応の努力をしたと評価することができるが、合理的な人選基準によりXら3名を解雇対象者として選定したとは認められない。 Xらに対する本件解雇は、いずれも著しく不合理であり、社会的に相当とはいえないから、解雇権の濫用として無効というべきである。

【裁判例情報】三田尻女子高校事件

三田尻女子高校事件(山口地裁平成12年2月28日決定)

(事案の概要) 
Yは、高等学校を設置する学校法人であり、Xらはその教育職員として勤務してきたところであるが、Yは「生徒減による経営難」を理由に、平成8年度において、21名の人員削減を行い、平成9年度においても、同様の理由により、同年11月29日と平成10年1月21日、希望退職を募集し、同月26日から29日にかけて、Xらを含む10名の教職員に対して、指名退職勧奨を行った。そして、平成10年3月24日、Yは、退職勧奨を受け入れなかったXらを含む7名の教員に対し、「Yの財務状況が極めて厳しいため、即時解雇する」旨の意思表示をなしたものである。

(決定の要旨) 
一般に、使用者の財政状態の悪化に伴い、人件費削減のための手段として行われるいわゆる整理解雇は、労働者がいったん取得した使用者との雇用契約上の地位を、労働者の責に帰すべからずざる事由によって一方的に失わせるものであり、それだけに、労働者の生活に与える影響も甚大なものがあるから、それが有効となるためには、(1)経営上、人員削減を行うべき必要性があること、(2)解雇回避の努力を尽くした後に行われたものであること、(3)解雇対象者の選定基準が客観的かつ合理的であること、(4)労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき、納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議すべき義務を尽くしたこと、以上の各要件すべていずれも充足することが必要である。 
そして、本件のごとく、使用者たるYが私学である本校の設置・経営者であり、労働者たるXらがその教員であるような場合、Xらが主張するとおり、安易な教員数の削減は、教育の質の低下を来たし、そのしわ寄せを生徒に押しつける事態を生じさせるおそれがあることから、右教員の整理解雇に当たっては、右に挙げた整理解雇の制限法理が、一般私企業の場合に比してより厳格な判断基準の下に適用されるべきと解される。 Yについては、本件各解雇に際し、将来的予測として帰属収入の恒常的減少が避けられない状況にあることから、その資産を維持すべく、消費支出、特にその中でも大きな割合を占める人件費の削減が必要であるとの認識を有してこれに当たっていたということ以上の点は指摘し難いところである。 かえって、Yは、各解雇時点において、直ちに指名解雇の手段による更なる人員削減を行わずとも、継続的に希望退職者を募りつつ、一定期間、それ以後における長期的な視野に立った人件費削減及び収入増加に向けた取組みに関する協議を十分に尽くすなどの手段を講ずる一方で、同期間内の消費支出超過分については、比較的優良な資産の一部を取り崩してこれを充てることにより、相応の程度柔軟かつ弾力的に対処し得るだけの財政的な体力を有していたと思料される。 本件の場合、Yにつき、本件各解雇に至るまでに、希望退職者を募る方法により指名解雇を避けるべく配慮したことは一応認めることができるものの、同各解雇当時、客観的に見て、Xらをして、その意思とは無関係に、Yの教員たる地位を一方的に失わせるという、平成8年度に続き、これと一環をなすとみられる再度のかつ大幅といってよい人員削減をしなければならない程に、その財政状況が悪化した状況にあり、かつ、Yが同各解雇を回避すべく努力を尽くした上でこれらをなしたとの各疎明はいずれも足りないというべきである。加えて、本件各解雇に際して、Yが、妥当な手続を尽くしたとも解し難い。 そして、如上検討したところを、前記に掲げたより厳格な判断基準に則った4要件に照らした場合、本件各解雇は、上記4要件のうち、(1)、(2)及び(4)を備えていないとみられるので、明らかに、右4要件全てをいずれも満たしているとはいえないと判断するのが相当である。 したがって、右要件中(3)につき検討するまでもなく、本件各解雇は、許容される整理解雇の場合に当たらず無効である。

【裁判例情報】ナショナル・ウエストミンスター銀行事件

ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(東京地裁平成12年1月21日決定)

(事案の概要) 
Xは、昭和58年に、外資系銀行のYに入社し、貿易担当業務を担当していた。 平成9年当時、Yは経営方針転換により、貿易担当業務から撤退し、その統括部門であるGTBS(グローバル・トレード・バンキング・サービス)部門の閉鎖を決定した。同部門の閉鎖により、Xのポジションが消滅するが、Yは、Xを配転させ得るポジションは存在しないとして、Xに対し一定額の金銭の支給及び再就職活動の支援を内容とする退職条件を提示し、雇用契約の合意解約を申し入れた。しかし、Xはこれを拒否し、Yでの雇用の継続を望んだため、Yは他部署のクラークのポジションを提案したが、Xがこれも受け入れなかった。そこで、YはXに対し、普通解雇する旨の意思表示を行った。

(決定の要旨) 
〈GTBS部門閉鎖の決定は、リストラクチャリング(事業の再構築)の一環であるところ、このような事業戦略にかかわる経営判断は、高度に専門的なものであるから、基本的に、企業の意思決定機関における決定を尊重すべきものであり、リストラクチャリングの目的からすれば、経営が現に危機的状態かどうかにかかわらず、余剰人員の削減が俎上に上ることは必然ともいえる一方、余剰人員として雇用契約の終了を余儀なくされる労働者にとっては、再就職までの当面の生活の維持に重大な支障を来すことは必定であり、余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的であると考えられる限り極力雇用の維持を図るべきで、雇用契約の解消について合理的な理由があると認められる場合であっても、労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のための相当の配慮とともに、雇用契約を解消せざるを得なくなった事情について労働者の納得を得るための説明など、誠意をもった対応が求められるとした上で、〉いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである。 
Yとしては、Xとの雇用契約を従前の賃金水準を維持したまま他のポジションに配転させることができなかったのであるから、Xとの雇用契約を継続することは、現実的には、不可能であったということができ、したがって、Xとの雇用契約を解消することには、合理的な理由があるものと認められる。 Yは、平成9年4月のXに対する雇用契約の合意解約の申し入れに際し、就業規則所定の退職金約800万円に対して特別退職金等約2330万円余の支給を約束し、同年9月の解雇通告に際し約335万円を上乗せし、同年10月には退職金名目で1870万円余をXの銀行口座に振り込んでいるが、これはXの年収が1052万円余であることに照らし、相当の配慮を示した金額である。さらに、YはXの再就職が決まるまでの間の就職斡旋会社のための費用を無期限で支払うことを約束しており、YはXの当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮をしたものと評価できる。 
また、Yは、サービゼズの経理部におけるクラークのポジションを年収650万円でXに提案したが、当時、同ポジションには年収450万円の契約社員が十分に満足のいく仕事をしていたところ、退職予定のない同人を解雇してまでXにポジションを与えるべく提案をしたものであり、これに加えて、賃金減少分の補助として退職後1年間について200万円の加算支給の提案をするなど、Yはできるかぎり誠意をもってXに対応したものといえる。 
以上のとおり、Xとの雇用契約を解消することには合理的な理由があり、Yは、債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についても債権者に繰り返し説明するなど、誠意をもった対応をしていること等の諸事情を併せ考慮すれば、未だ本件解雇をもって解雇権の濫用であるとはいえない

【裁判例情報】あさひ保育園事件

あさひ保育園事件(最高裁昭和58年10月27日第一小法廷判決)

(事案の概要) 
Yは、保育園を経営している者であり、Xは、保母として、Yと雇用契約を締結していた。 昭和50年4月におけるYの園児数は185名であったが、園児が新たに設立された保育園に転園したことや、卒園児に対して入園児が少なかったことから、昭和51年4月30日における園児数は126名となった。 このような状況の下で、Yは、それまでの定員150名を120名に削減することを決定し、北九州市に届け出でて、3月11日に承認された。 Yでは市から支給される措置費がその主たる運営資金であったところ、定員削減により、これが減額されることになったこと、園児の減少により従前8名いた保母は6名でも足りることになったこと、従前から保育園の運営費に余裕がなく、収入減少に対応するには人件費削減によるしかなかったことを理由として、同年3月5日、理事会において2名の保母を解雇することを議決し、同月25日、Xほか1名を解雇した。

(判決の要旨) 
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、Yにおいて、園児の減少に対応し保母2名を人員整理することを決定すると同時に、Xほか1名の保母を指名解雇して右人員整理を実施することを決定し、事前に、Xを含むYの職員に対し、人員整理がやむをえない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、かつ、希望退職者募集の措置を採ることもなく、解雇日の6日前になって突如通告した本件解雇は、労使間の信義則に反し、解雇権の濫用として無効である、とした原審の判断は、是認することができないものではなく、原判決に所論の違法はない。

【裁判例情報】東洋酸素事件

東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)

(事案の概要) 
酸素・窒素等の製造販売を営むY社は、昭和44年下期に4億円余の累積赤字を計上した。その原因は、業者間の競争激化、石油溶断ガスの登場による価格下落、生産性の低さ等の問題を抱えるアセチレンガス製造部門であった。 このためY社は同社川崎工場アセチレン部門の閉鎖を決定し、昭和45年7月24日、同年8月15日付けでXら13名を含む同部門の従業員全員について就業規則にいう「やむを得ない事業の都合によるとき」を理由として解雇する旨通告した。そこで、XらはY会社を相手に地位保全等の仮処分を申請した。 なお、その際他部門への配転や希望退職募集措置などは採られず、また、就業規則や労働協約上にいわゆる人事同意約款は存在しなかった。

(判決の要旨) 
解雇が労働者の生活に深刻な影響を及ぼすものであることにかんがみれば、企業運営上の必要性を理由とする使用者の解雇の自由も一定の制約を受けることを免れないものというべきである。 特定の事業部門の閉鎖に伴い同事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものと言い得るためには、(1)同事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものと認められる場合であること、(2)同事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは同配置転換を行ってもなお全企業的にみて剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと、(3)具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の3個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りるものと解するのが相当である。 
以上の要件を超えて、同事業部門の操業を継続するとき、又は同事業部門の閉鎖により企業内に生じた過剰人員を整理せず放置するときは、企業の経営が全体として破綻し、ひいては企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないものとする考え方には、同調することができない。 なお、解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべきであるけれども、これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無は、就業規則所定の解雇事由の存在が肯定された上で検討されるべきものであり、解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならないものというべきである。 

〈先に述べた判断基準に照らして当該事案を検討すると、(1)について、同部門の業績不振は業界の構造的変化とY会社特有の生産能率の低さに起因し、その原因の除去と収支改善は期待できず、(2)について、同部門従業員47名のうち46名は現業職であるから、配転の対象となる職種は現業職及びこれに類似する特務職に限られるが、かかる職種は当時他部門でも過員であり、近い将来欠員の発生の見込みはなく、配転先確保のため他部門で希望退職者を募集すべき義務があるかは、当時、求職難の時期であり全従業員を対象に希望退職者を募集すると同業他社から引き抜かれ、これに同部門従業員を配置すると当分の間作業能率が下がることは避けられない等の事情を勘案すると希望退職者を募集すべきであり、これにより同部門閉鎖によって生ずる余剰人員発生を防止することができたはずとはいえない。(3)について、同部門は独立した事業部門であって、その廃止で企業全体での過員数が増加したのであるから、管理職以外の同部門の全従業員を解雇の対象としたことは一定の客観的基準に基づく選定であり、その基準も合理性を欠くものではない。〉 以上のとおりであるから、本件解雇は就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものということができ、本件解雇について就業規則上の解雇事由が存在することは、これを認めざるを得ないものというべきであり、他に右認定を妨げるべき特段の事情の存在は認められない。 
〈当時Y社においては人事同意約款等は存在せず、アセチレン部門が経営上放置し得ないほど赤字で廃止もあり得ることは繰り返し説明がなされていた等の〉事情のもとでは、Y社が組合と十分な協議を尽くさないで同部門の閉鎖と従業員の解雇を実行したとしても、特段の事情のない限り、本件解雇通告が労使間の信義則に反するとはいえない。

【裁判例情報】高知放送事件

高知放送事件(最高裁昭和52年1月31日第二小法廷判決)

(事案の概要) 
Xは、放送事業を営むY会社のアナウンサーであったが、担当する午前6時から10分間のラジオニュースについて、2週間に2回の寝過ごしによる放送事故を起こした。第一事故は、Xが前日からA(ファックス担当者)と宿直勤務した後、午前6時20分まで仮眠してしまったためラジオニュースを全く放送できなかった。第二事故は、同様にB(同)と前日から宿直した後、寝過ごしのためラジオニュースを5分間放送できなかった。Xは、第二事故については当初上司に報告せず、後に事故報告書を求められ、事実と異なる報告書を提出した。そこで、Y会社はXを解雇した。 Y会社の就業規則には、普通解雇事由として「一、精神または身体の傷害により業務に耐えられないとき。二、天変地異その他已むを得ない事由のため事業の継続が不可能となったとき。三、その他、前号に準ずる程度の已むをえない事由があるとき。」と定められており、Y会社は、Xの行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するので、懲戒解雇とすべきところ、再就職など将来を考慮して普通解雇に処したとする。これに対し、Xは解雇権の濫用であるとして、Y会社の従業員としての地位確認の請求を行った。

(判決の要旨) 
本件の事実に照らせば、Xの行為は就業規則所定の普通解雇事由に該当するものというべきである。しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇し得るものではなく、当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるというべきである。 
Xの起こした2回の放送事故は定時放送を使命とするY会社の対外的信用を著しく失墜するものであり、Xが寝過ごしという同一態様に基づき、2週間内に2回も同様の事故を起こしたことはアナウンサーとしての責任感に欠け、更に第二事故直後においては率直に事故の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできない。 
しかしながら、(1)本件事故は、共にXの過失によって発生したもので、悪意又は故意によるものではなく、また、通常アナウンサーより先に起きてアナウンサーを起こすことになっているファックス担当者も寝過ごしておりXのみを責めるのは酷であること、(2)Xは第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、(3)寝過ごしによる放送時間の空白はさほど長時間とはいえないこと、(4)Y会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき措置を講じていなかったこと、(5)事実と異なる報告書を提出したことも、短期間内に2度の放送事故を起こして気後れしていたこと等を考えると、これを強く責めることはできないこと、(6)Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、(7)第二事故のファックス担当者Bはけん責処分に処せられたに過ぎないこと、(8)Y会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと、(9)第二事故についても結局は事故の非を認めて謝罪の意を表明していること、等の事情の下において、Xに対し解雇をもって臨むことは、いささか苛酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。したがって、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審(高松高裁昭和48年12月19日判決)の判断は正当と認められる。

【裁判例情報】日本食塩製造事件

日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決)

(事案の概要) 
Y会社と組合との間には、新機械の導入に関し意見の対立がみられたが、この間Xは、一部職場の女子従業員に対し職場離脱をなさしめたほか、無届集会をしたこと、更に夏期一時金要求に伴う闘争に関し会社役員の入門を阻止した等の事案が会社の職場規律を害するものとして使用者により懲戒解雇された。なお、この時、組合委員長ほか他の組合員も、出勤停止、減給、けん責などの処分を受けている。 組合は地労委に不当労働行為を申立て処分撤回の和解が成立したが、この和解には和解の成立の日をもってXが退職する旨の規定が含まれていた。しかし、Xに退職する意思は見受けられなかったところ、組合は、和解案の受諾にXのみの退職を承認したのは闘争において同人の行き過ぎの行動があったこと、受諾の趣旨はこれにより会社と組合との闘争を終止せしめ、労使間の秩序の改善を意図したものであることなどを背景に、Xが退職に応じないときは組合から離脱せしめることも止むを得ないと考えて同人を離籍(除名)処分に付した。 Y会社と組合との間には、「会社は組合を脱退し、または除名された者を解雇する。」旨のユニオン・ショップ協定が結ばれており、Y会社は、この協定に基づきXを解雇した。そこで、Xは、雇用関係の存在確認の請求を行った。

(判決の要旨) 
使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。 
ところで、ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失つた場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を果たすものと認められる限りにおいてのみその効力を承認することができるものであるから、ユニオン・ショップ協定に基づき使用者が労働組合に対し解雇義務を負うのは、当該労働者が正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定され、除名が無効な場合には、使用者は解雇義務を負わないものと解すべきである。そして、労働組合から除名された労働者に対しユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオン・ショップ協定によって使用者に解雇義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、同除名が無効な場合には、前記のように使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であると言わなければならない。(原判決(東京高裁昭和43年2月23日判決)を破棄差戻)

【裁判例情報】解雇

◆解雇権の濫用の判断

日本食塩製造事件(昭和50年 最高裁第二小法廷判決)
使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるとした。

高知放送事件(昭和52年 最高裁第二小法廷判決)
寝過ごしによる2度の放送事故を起こした労働者に対する解雇について、悪意や故意によるものではなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと等から、本件解雇を解雇権の濫用として無効とした原審の判断を認容した。

◆整理解雇

東洋酸素事件(昭和54年 東京高裁判決)
整理解雇について、人員削減の必要性、人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、解雇対象の選定の妥当性、解雇手続の妥当性が必要であるとした上で、これらの事情を認め解雇を有効とした。

あさひ保育園事件(昭和58年 最高裁第一小法廷判決)
希望退職者募集などの措置をとることなくなした解雇は、労使間の信義に反し権利の濫用として無効となるとした原審の判断を認容した。

ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(平成12年 東京地裁決定)
いわゆる整理解雇の4要件は、解雇権濫用の判断の際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないとした。

三田尻女子高校事件(平成12年 山口地裁決定)
整理解雇が有効となるためには、人員削減の必要性、解雇回避努力、解雇対象の選定基準の客観性・合理性、労働組合・労働者との誠意ある協議の各要件を、全ていずれも充足することが必要であるとした。

労働大学(本訴)事件(平成14年 東京地裁判決)
解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できないときは、解雇は権利の濫用として無効になると解すべきであり、これは、使用者において人員削減の必要性があったかどうか、解雇を回避するための努力を尽くしたかどうか、解雇対象者の選定が妥当であったかどうか、解雇手続が相当であったかどうか等の観点から具体的事情を検討し、これらを総合考慮して判断するのが相当とした。

◆懲戒解雇

日本経済新聞社事件(昭和45年 東京地裁判決)
使用者が懲戒解雇事由に当たるとした事実が、懲戒解雇事由に当たると評価し得ない場合でも、直ちに雇用関係消滅の効果が生じないと断定することなく、通常解雇としての効力が生じないかどうかを検討する必要があるとした。

国鉄中国支社事件(昭和49年 最高裁第一小法廷判決)
職場外でされた職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序の維持確保のために規制の対象とすることが許される場合はあり、公務執行中の警察官に暴行を加えたことを理由とする本件免職処分が、裁量の範囲を超えた違法なものとすることはできないとした。

フジ興産事件(平成15年 最高裁第二小法廷判決)
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するとした。

◆解雇に関する手続

細谷服装事件(昭和35年 最高裁第二小法廷判決)
労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで解雇の通知をした場合、即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後30日を経過するか予告手当の支払をしたときから解雇の効力を生ずるものとした。

プラス資材事件(昭和51年 東京地裁判決)
解雇予告手当を支払わずに解雇の意思表示をした使用者は、解雇通知後30日を経過したこと等により雇用契約が終了した時点において、労働者に対し解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を負うとした。

セキレイ事件(平成4年 東京地裁判決)
使用者が解雇予告手当を支払うことなく即時解雇の意思表示をし、労働者が雇用関係の即時終了を容認し解雇予告手当の支払を求めている場合には、労働者の意思表示によって雇用関係は即時に終了し、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払うべき義務が生じるとした。

上野労基署長(出雲商会)事件(平成14年 東京地裁判決)
解雇の効力は行政官庁による解雇予告除外認定の有無、内容に関わりないとした。

大阪フィルハーモニー交響楽団事件(平成元年 大阪地裁判決)
会社と労働組合との間に、組合員の解雇に関して労使の協議等を規定する協定があるにもかかわらず、協議が整わないままなされた解雇について、解雇事由が解雇に相当する強度の背信性を持つ等の特段の事情も認められないことから、違法、無効であるとした。

社会福祉法人さくら事件(平成14年 神戸地裁姫路支部判決)
解雇前日の段階では労働者に反省を促すつもりであったのであれば、事情聴取や口頭注意等の善後策を講じるべきであり、これらの措置を何ら講じることなく翌日直ちに解雇を決断したという会社側の対応は理解し難く、解雇事由について合理性ないし相当な理由があるとは認められないとした。

◆就業規則所定の解雇事由

茨木消費者クラブ事件(平成5年 大阪地裁決定)
会社の就業規則の規定は普通解雇事由を限定的に列挙したものと認められ、このように使用者が就業規則において普通解雇事由を限定的に列挙して規定している場合には、普通解雇事由に該当する事実がなければ解雇しない趣旨に使用者自ら解雇権を制限したものと解するのが相当であるとした。

◆解雇と不法行為

女子学院事件(昭和54年 東京地裁判決)
本件解雇予告は権利の濫用として違法であり、会社はこのような理由で解雇予告をしてはならないのにこれをしたことにつき過失があり、本件解雇予告は不法行為を構成するとした。

トーコロ事件(平成6年 東京地裁判決)
本件解雇は無効であるが、解雇に至った経緯等からすると労働者の受けた精神的苦痛は雇用契約上の地位の確認等によって慰謝されるべき性質のものであり、本件解雇を不法行為あるいは債務不履行に当たるとして慰謝料の支払いを求めることはできないとした。

わいわいランド事件(平成13年 大阪高裁判決)
業務委託の不成立を理由とする解雇は有効であるが、業務委託に関する交渉経過等を説明することなく、それが成立するものとして雇用契約を勧誘し、これにより労働者らを失職させたことが、不法行為に当たるとした。なお、労働者は復職を望んでいないが、解雇成立までの30日分の賃金請求を認め、また、損害賠償請求についても、将来の賃金相当分(5か月分)を逸失利益として認めた。

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