2002年5月11日土曜日

【裁判例情報】芝信用金庫事件

芝信用金庫事件(東京高裁平成12年12月22日判決)

(事案の概要) 
X(女性13名)は、金融業のY金庫で18年から40年にわたって勤務していたが、Y金庫が性別による昇進、昇格差別を行っており、Xは、公序、労働契約、労基法第13条、同法第93条及び就業規則上の規定から生じる昇格請求権があると主張した。そこでXは、自分たちが「課長職の資格」を有すること及び「課長の職位」にあることの確認並びに差額賃金の支払を主体的に請求し、不法行為に基づく差額賃金等の損害賠償、債務不履行(予備的に不法行為)に基づく慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償の支払を予備的に請求して出訴した。1審はY金庫における両性間の著しい格差の存在を認定し、Xを昇格させなかったことは性的差別に当たり、X(1名を除く)が課長職の地位にあることの確認を認め、差額賃金等の支払を認めた。一方で、上位の職位の付与についてはこれを認めず、慰謝料についても請求を棄却した。X、Y金庫双方が控訴したもの。

(判決の要旨)
<係長への昇進について> Y金庫における人材登用が、Y金庫の主張するような職務遂行能力、係長としての適格性という観点のみによってされたという点については疑問を払拭することができない。しかし、係長に昇進させるか否かについては、全職員及び預金者等に対しすべての経営責任を負っているY金庫の理事の極めて実践的な経営判断、人事政策に属するものであって、専権的判断事項というべきものであるから、一概に男女差別に基づいてされたものと断ずることもできないというべきである

<課長職への昇格について> 同期同給与年齢の男性職員のほぼ全員が課長職に昇格したにもかかわらず、依然として課長職に昇格しておらず、諸般の事情に照らしても、昇格を妨げるべき事情の認められない場合には、当該Xについては、昇格試験において、男性職員が受けた人事考課に関する優遇を受けられないなどの差別を受けたため、そうでなければ昇格することができたと認められる時期に昇格することができなかったものと推認するのが相当であり(年功加味的運用差別)、Xと同期同給与年齢の男性職員の実際の昇格状況、Xにおける昇格を妨げるべき事情の有無等について、Xごとに個別具体的に検討し、昇格の成否について判断を加えることになる。 
昇格に関する判断については、Y金庫の経営判断に基づく裁量を最大限に尊重しなければならないことはいうまでもない。 
しかし、<中略>昇格の有無は、賃金の多寡を直接左右するものであるから、職員について、女性であるが故に昇格に就いて不利益に差別することは、女性であることを理由として、賃金について不利益な差別的取扱いを行っているという側面を有するとみることができる。 
<労働基準法第3条、第4条、第13条及び第93条>及び就業規則の定めによれば、使用者は、男女職員を能力に応じ、処遇面において平等に扱う義務を負っていることが明らかであり、使用者が性別により賃金差別をした場合には、右法律及び就業規則の規定に抵触し、かかる差別の原因となる法律行為は無効であると解すべきである。そして、右のようにして賃金の定めが無効とされた場合には、差別がないとした場合の条件の下において形成されるべきであった基準(賃金額)が労働契約の内容になると解するのが相当である。<中略>
本件は、女性であることを理由として、Xの賃金について直接に差別したという事案ではなく、また、特定の資格を付与すべき基準が労働基準法にはもとより就業規則にも定められている訳ではないので、前記労働基準法ないし就業規則の規定が直接適用される場合には当たらない。
しかしながら、<中略>同法13条ないし93条の類推適用により、右資格を付与されたものとして解することができると解するのが相当である。職員の昇格の適否は、経営責任、社会的責任を負担するY金庫の経営権の一部であって、高度な経営判断に属する面があるとしても、単に不法行為に基づく損害賠償請求権だけしか認められないものと解し、右のような法的効果を認め得ないとすれば、差別の根幹にある昇格についての法律関係が解消されず、男女の賃金格差は将来にわたって継続することとなり、根本的な是正措置がないことになるからである。以上のとおりであるから、<中略>Xは、<中略>課長職に昇格しているというべきである。
 

【裁判例情報】東日本電信電話事件

東日本電信電話事件(東京地裁平成16年2月23日判決)

(事案の概要) 
Xは、電気通信事業を営むY社に雇用され、平成11年7月から平成14年4月まで短時間制特別社員との身分で営業活動を担当していた。Xは平成14年4月末にY社を退職し、Y社の関連会社であるA社に採用された。平成15年3月末、Xは定年を迎え、A社を退職した。XはY社在職中の平成13年12月、年末特別手当の支給を受けたが、Y社の同手当の算定に当たっては各労働者の業績評価が反映されており、同手当の算定期間におけるXの評価は4段階のうち最低の「D評価(期待し要求する程度を下回る)」であった。また、XはA社を退職した際に退職金の支給を受けたが、A社からの退職金支給においては、月単位で成果要素等を累積させることとされていたところ、XがA社に在籍していた期間のうち、平成14年5月から平成15年1月までの9ヶ月間の成果要素については、Y社における平成13年度の総合評価が反映されることとされており、Xの平成13年度の総合評価は4段階のうち最低の「D評価(期待し要求する程度を下回る)」であった。 Xは、自分には「C評価(期待し要求する程度であった)」との評価を受ける権利があり、Y社は査定義務に違反したとして、「C評価」を受けていれば得られていた場合との差額の支払等を求めて出訴した。

(判決の要旨) 
使用者が賞与等を決定するために行う人事評価は、使用者が企業経営のための効率的な価値配分を目指して行うものであるから、基本的には使用者の総合的裁量的判断が尊重されるべきであり、それが社会通念上著しく不合理である場合に限り、労働契約上与えられた評価権限を濫用したものとして無効となるというべきである。 
<諸事情を考慮すれば、>Xに対する平成13年度下期業績評価及び同年度総合評価を「期待し要求する程度を下回った」とするD評価としたことが、社会通念上著しく不合理であるということはできない。
 

【裁判例情報】マナック事件

マナック事件(広島高裁平成13年5月23日判決)

(事案の概要) 

化学薬品等を製造するY社に勤務していたXは、Y社の営業所において主任として職能資格等級4等級(監督職)に格付けされ、平成6年4月以降職能給4級として基本給と役付手当の支給を受けていた。
同年6月、Y社取締役の1人が退任するとの新聞記事をめぐり、Xが当時の経営陣を批判する言動をなしたことからXは上司から叱責を受け、同年7月にはY社会長室において会長から注意を受けた。
その後Xは平成7年4月、Y社降格規程の「勤務成績が著しく悪いとき」に該当するとして3級に降格する処分を受け、事業所等にその旨の処分が掲示された。また、人事評定により職能給3級と決定された。さらに、平成6年夏季賞与は算定期間における業績評定上の評点がEマイナス(最低の評定)であるとして、それに基づく額(564,000円)が支給され、平成6年冬季及び同7年夏季賞与は賞与規程に該当する不支給事由があるとして代替措置として基本給相当額が、平成7年冬季、同8年夏季、同年冬季賞与は評定なしにそれぞれ40万円が恩恵的に、平成9年夏季、同年冬季、同10年夏季賞与は評定なしにそれぞれ50万円が恩恵的に、平成10年冬季賞与は算定期間における業績評定上の評点がEマイナスであるとして、それに基づく額(568,500円)が支給された。 
そこでXは、(1)本件降格処分の違法・無効確認と降格処分により支給されなくなった役付手当額の賠償、(2)違法な評定によって被った昇給差額及び賞与差額の賠償等を求めて出訴。1審は、Xの請求のうち(2)を認容したが、大部分を棄却した。Xがこれを不服として控訴したもの。

(判決の要旨)
<昇給査定について> 昇給査定は、これまでの労働の対価を決定するものではなく、これからの労働に対する支払額を決定するものであること、給与を増額する方向での査定でありそれ自体において従業員に不利益を生じさせるものではないこと、本件賃金規程によれば、Y社における昇給は、原則として年1回(4月)を例とし、人物・技能・勤務成績及び社内の均衡などを考慮し、昇格資格及び昇給額などの細目については、その都度定めると規定されていること、これらからすると、従業員の給与を昇給させるか否かあるいはどの程度昇給させるかは使用者たるY社の自由裁量に属する事柄というべきである。
しかし、他方、本件賃金規程が、昇給のうちの職能給に関する部分(年齢給及び勤続給は<別紙略>のとおり年齢及び勤続年数により定期的に昇給する旨が定められている。)を<別紙略-職能給級号指数表>により個々に定めるとし、本件人事考課規程により、この指数を決定するにつき、評定期間を前年4月1日から当年3月31日までの1年間とする人事評定や評定の留意事項が詳細に定められていることからすると、Y社の昇給査定にこれらの実施手順等に反する裁量権の逸脱があり、これによりXの本件賃金規程及び人事考課規程により正当に査定されこれに従って昇給するXの利益が侵害されたと認められる場合には、Y社が行った昇給査定が不法行為となるものと解するのが相当である。<中略> 
<本件についてみると、平成7年4月の昇給査定についてはXの言動が評価を低下させ、その評定の手順等について裁量権の逸脱はなく、Xの主張に理由がないが、平成8年4月の昇給査定については、> 常務会の審議において一次評定及び二次評定の評定結果を評価換えした理由は、<平成6年6月の>郷分事務所事件及び<平成7年7月の>会長室事件やその直後のXの対応を理由として行われたと推認するほかはなく、このことは、人事評定期間を前年4月1日から当年3月31日までと定めた人事考課規定に反するし、また、他に一次評定及び二次評定の評定に基づくランクCをランクEに評価替えすることを相当とすべき事実があったと認めるに足りる証拠もないから、この期におけるYの昇給査定には裁量権を逸脱した違法があるというべきである。 
<また、平成9年及び同10年の昇給査定についても、考課における裁量権の逸脱が認められることから違法であるとされ、Y社はXに対し、違法な昇給査定によりXが被った実損害額を賠償しなければならないとされた。>

<賞与査定について> 一般的に賞与が功労報償的意味を有していることからすると、賞与を支給するか否かあるいはどの程度の賞与を支給するか否かにつき使用者は裁量権を有するというべきである。しかし、賞与はあくまで労働の対価たる賃金であり、本件賞与規程が、会社の経営状態が悪化した場合を除いては原則として賞与を支給すると定め、支給時期、算定期間、支給額の算定基準を明確に規定し、本件人事考課規程により、支給額決定のための評点を決定するにつき、業績評定の実施手順や評定の留意事項を詳細に定めていることからすると、Y社の賞与査定にこれらの実施手順等に反する裁量権の逸脱があり、これらによりXの本件賞与規程及び人事考課規程により正当に査定されこれに従って賞与の支給を受ける利益が侵害されたと認められる場合には、Y社が行った賞与査定が不法行為となるものと解するのが相当である。 

【裁判例情報】昇進、昇格、降格

◆ 人事考課

マナック事件(平成13年 広島高裁判決)
人事考課規程により人事評定や評定の留意事項が詳細に定められている場合においては、昇給査定にこれらの実施手順等に反する裁量権の逸脱があり、正当な査定に従って昇給する利益が侵害されたと認められるときには、使用者が行った昇給査定が不法行為となるとし、人事考課規定に定める査定期間外の事実を査定対象としたことについて、裁量権を逸脱したものとして違法とされた。

東日本電信電話事件(平成16年 東京地裁判決)
人事評価は、基本的には使用者の総合的裁量判断が尊重されるべきであり、それが社会通念上著しく不合理である場合に限り、労働契約上与えられた評価権限を濫用したものとして無効になるとした。

◆  昇進

芝信用金庫事件(平成12年 東京高裁判決)
昇進については、極めて実践的な経営判断、人事政策に属するものであって、専権的判断事項というべきものであるとした。

◆ 昇格

社会保険診療報酬支払基金事件(平成2年 東京地裁判決)
男女差別の禁止は、公の秩序として確立しており、男女が平等に取扱われるという期待ないし利益は、不法行為における被侵害利益として法的保護に値すると解すべきであり、昇格における差別につき故意又は過失があったときは、不法行為が成立するとし、また、使用者の職員に対する昇格は、原則として職務と一体になった等級を使用者の人事上の裁量によって変更するものであり、あくまで使用者の裁量権の行使であるため、使用者による昇格決定のない者を昇格したものと取扱うことはできないとした。

光洋精工事件(平成9年 大阪高裁判決)
人事考課については、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできないというべきであるとした。

住友生命保険事件(平成13年 大阪地裁判決)
既婚者であることを理由として、一律に低査定を行うことは、個々の労働者の業績、執務、能力に基づき人事考課を行うという人事権の範囲を逸脱するものであり、人事権の濫用として、かかる人事考課、査定を受けた個々の労働者に対して不法行為となるとした。

◆ 降格

① 役職の引下げ

エクイタブル生命保険事件(平成2年 東京地裁決定)
役職者の任免は、使用者の人事権に属する事項であって使用者の自由裁量にゆだねられており裁量の範囲を逸脱することがない限りその効力が否定されることはなく、就業規則などに根拠規定がなくとも、その人事権に基づく降格処分ができないとはいえないとした。

バンク オブ アメリカ イリノイ事件(平成7年 東京地裁判決)
課長から専門職への役職の引き下げについて、業務上・組織上の高度の必要性があったこと、役職手当は減額されるが、人事管理業務を遂行しなくなることに伴うものであること、降格発令をされた他の多数の管理職らは、いずれも降格に異議を唱えていないこと等の事実からすれば、使用者に委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできないとした。

デイエフアイ西友事件(平成9年 東京地裁決定)
配転と賃金とは別個の問題であって、使用者は、より低額な賃金が相当であるような職種への配転を命じた場合であっても、特段の事情のない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているとした。

医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件(平成9年 東京地裁判決)
人事権の行使について、使用者に委ねられた裁量判断を逸脱しているか否かを判断するにあたっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合考慮すべきとした。

倉田学園事件(平成9年 高松高裁判決)
労働契約の基本的内容を変更する降職処分は、労働契約の同一性を前提とするものではないから、就業規則所定の懲戒事由を根拠として行うことは許されないとした。

近鉄百貨店事件(平成11年 大阪地裁判決)
管理職ではない者に対する、給与の減額という不利益を伴う降格について、会社の昇進、降格についての裁量は、管理職についての昇進・降格の裁量と比較すれば、狭く解するべきとした。

アメリカン・スクール事件(平成13年 東京地裁判決)
降格処分について、就業規則に定めがない場合であっても、人事権の行使として、降格処分を行う(地位から解く)ことも許されるとした。

渡島信用金庫事件(平成14年 函館地裁判決)
降格、降職行為等が人事権の行使としての裁量権を逸脱しているかどうかを判断するに当たっては、使用者における業務上、組織上の必要性の有無及び程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、使用者における降格、降職等の運用状況等の事情を総合考慮すべきであるとした。

② 職能資格の引下げ・職務変更に伴う賃金の引下げ

アーク証券事件(平成12年 東京地裁判決)
労働者の自由な意思に基づく合意や就業規則変更の合理性が認められなかったため、変動賃金制(能力評価制)導入に伴う役職及び号俸の引き下げが認められなかった。

小坂ふくし会事件(平成12年 秋田地裁大館支部判決)
労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であり、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないとした上で、降格についても、これに減給が伴うものであるから、一方的な降格処分は無効とした。

フジシール事件(平成12年 大阪地裁判決)
本件の就業規則上、副参与職は、「職能」資格であり、これは本来引下げられることが予定されたものでなく、これを引下げるには、就業規則等にその変更の要件が定められていることが必要であるとした。

西東社事件(平成14年 東京地裁決定)
賃金額に関する合意は雇用契約の本質的な部分を構成する基本的な要件であって、使用者において一方的に賃金額を減額することは許されず、これを正当化する特段の事情もないとして、配置転換に伴う賃金減額を無効とした。

日本ガイダント仙台営業所事件(平成14年 仙台地裁決定)
職務内容の変更と降格の側面を有する配置転換につき、賃金の減額を相当とする客観的合理性がない限り、当該降格は無効となり、降格が無効なら、配置転換命令全体が無効になるとした。

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(平成15年 神戸地裁決定)
職務の水準に基準を設け、各バンドの職務内容・昇進の基準を明確化し、バンドごとに基本給の範囲を定めるジョブ・バンド制において、企業の組織再編のための降格的配転の効力を判断するためには、対象者が被る不利益が相当程度である場合には、対象者選択に一定の合理性が必要であるとした。
 
 

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